恩を返すということ
生きていれば少なからず、人の恩を感じることがあります。
決して義務感からやってくれていることでなく、不思議なくらいに面倒を見てくれたり、相談に乗ってくれた方がこれまで何人もいました。
その時の私は、心身ともに弱っていたり、わからなくなっていたりするものだから、
そんな人たちの善意に甘えに甘えまくって、それで立ち直って、を繰り返してきました。
後になって何度も「恩返しがしたいなあ」と思うんだけど、そんな風にしてくださった方の多くが私よりも遥かに人生経験も豊富な大人で、
私が「ご飯をご馳走しますよ!」というのも変な話だし、何かをお送りして「ありがとうございました」というのも変。
じゃあそんな人にはどうやって恩を返したら良いのかと考えていたことがありました。
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つい最近、友達というのも変だけど、後輩というほど後輩でもないし、知り合いじゃあよそよそしいし…というような関係のタレントのコンポジットを私が作りました。
コンポジットとは、そのタレントやモデルが面接の時に持っていく作品集で、名前やスリーサイズなどの他に、
これまで撮ってもらった写真などを一緒にくっつけた、いわばその業界の子たちの履歴書です。
そういう活動をしている子は必ず持っていて、それを持ってオーディションへ行ったりします。
ちょうど事務所を変わろうとしている彼女にとっては、大事な大事なコンポジ。
それを上手に作れないのだと言って連絡をしてきてたのですが、普通の会社員だったら決して難しくはない作業だったのです。
よくあることなのですが、こういうタレントやヘアメイクなど、PCを日常の仕事で必ずしも必要としない人たちの中には、
未だにPCをうまく使いこなせない人たちがたくさんいます。
だからこそマネージャーがいて、事務処理などは私達マネージャーがしたりするのです。
最初のうちは「そんなことができなくて大丈夫!?」と思っていたのですが、一緒にいればいるほど「そんなことはできなくても大丈夫。」となってきます。
だって彼らには必要ないスキルですからね。
メールが打てて、添付ファイルくらい添付できるような技術で問題なく仕事ができます。
その代わりに彼らは、ヘアメイクとしてのセンスだったり、タレントとしての現場の回し方を必死で身につけて、
唯一無二のものにしていくことに力を注ぐのです。
これが、働きマンから抜粋する「鍛えた筋肉が違う」という部分です。
だから、彼女が上手にできなくても私が作れればそれでいいじゃん、ということで「やってあげようか?」と引き受けました。
彼女が分からない分からないって2日も3日もかけるより、修正などのやりとりをしながら2、3時間で作った方が効率がいいし、
彼女には今後、コンポジを作る技術を上げる必要性は全くないから。
だったらもっとテレビ見て勉強しとけよ!ってことなのです。
あっち側が慣れていないので決してスムーズに作れたわけじゃないけど、
ちゃんとできて「ありがとうございます!これで頑張ってきます!!!」とメッセージが来た時に
「ああ、恩返しとはこういうことだな」と思いました。
私のもらってきた恩は、もらった人に返すだけでなく、ちゃんと下に下ろしていく。
これこそが恩返しなんじゃないかと思ったんですね。
私は彼女からお金をもらったわけでもなく、むしろ時間とスキルを提供したわけだけど、
それは過去に私がたくさんの人にしてもらってきたこと。
だからそれをしっかり次の世代へ繋いで、いつか彼女が他の誰かにそうできるようにするのが、
良い恩の循環なのではないかと思います。
恩をくださった方には「しっかりやっています」という姿を見せて、
その姿の先に「あいつ、他の子のことも面倒見てるんだな」ということが、
恩をくださった方への最大の恩返しになるのではないかと、初めて恩を返すということがわかったように思います。
人というのは時に非情だし、厳しいし、泣かされたり、悲しい思いをさせられることもあるんだけど、
やっぱり人は人に支えられて生きていくものなんだと思います。
そしてそんな暖かさに触れて成長することができるのは幸せなことだと感じます。
小さい頃から親に「自分がやられて嬉しかったことは人にもするように」と教えられてきましたが、
今回はそれができたんだと思いました。
そしてそうしたことで「私もずいぶん大人になったもんだな」と思ったのです。
仕事で自分の成長を見ることは難しいことも多いけど、まさかこんなことでそう思うだなんて。
考えたこともなかった。
これからも何度も何度も人のお世話になっていくんだと思うけど、恩の返し方を知ったことで、
これからもう少し大人になれそうな気がします。
さっき「今日面接行ってきました。まだ結果はわからないけど、頑張ります」と電話があった彼女には、素直に頑張ってほしい。
いつかテレビで見ない日が来るのを、待ってるからね。